nakazawayutaka_1958

イニスは『Bias』の中で、「私の傾向は、口誦、とりわけギリシャ文明のなかに反映されたような口誦の側に傾いており、また口誦の精神のいくばくかを取り戻すことを必要と考える側に傾いている」と述べ、印刷、ラジオ、テレビといった機械的なコミュニケーション手段が知識の「伝達」には適しているが、知識の「創造」には全く不向きであることを強調している。イニスの関心は、機械的コミュニケーション手段の普及によって口誦の豊かな伝統が失われたことによる西洋文明の限界に向けられていた。もともと口誦文化に深い関心を持っていたマクルーハンは、『グーテンベルグの銀河系』では、印刷技術が西洋の口誦の伝統にもたらした影響を人間心理の変容の視点から探求していった。また『メディアの理解』では、イニスが否定的に捉えたラジオ、テレビなどの電気的コミュニケーション技術は機械的印刷技術の延長ではなく、印刷文化を反転させ口誦の伝統を復活させるものとして肯定的に展開した。